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油絵にも使われる亜麻仁油

自然食品であり、嬉しい健康効果と美容効果のある亜麻仁油。亜麻仁油が油絵の絵の具にも使われるということをご存知ですか?実は、亜麻仁油を使った絵の具は15世紀にはすでに西欧絵画に使われていました。亜麻仁油が持つ別の側面、油絵との関わりについて解説します。

油絵と亜麻仁油

ゴッホ、ゴーギャン、モネ、ルノワール、ドガ、セザンヌなど、印象派をあげただけでも油絵の画匠は多くいます。油絵の厚みのあるタッチは個性的で大変魅力です。国内の印象派展はいつも盛況ですし、海外の美術館で油絵を観るのが楽しみのひとつという方もいるでしょう。まず、油絵そして油絵で使われる油について解説します。

油絵に使われる油の種類

水を溶剤とする水彩絵の具で描かれた絵を水彩画と呼ぶのに対し、油絵は顔料を油で練り合わせた絵の具を使用して描かれた絵になります。

油絵に使われる絵の具とは、天然の鉱物質または人工の顔料を亜麻仁油やケシ油で練り、透明性、流動性そして密着力を与えたものです。水を一切含まず、絵の具を薄めるときは油を足します。

このようにして作られた油絵の具は、濃度そして延びを自由自在に作り出すことができます。ゴッホの「星月夜」のように絵の具を厚く乗せ、そして点描のテクニックを使って描かれたものは、油絵ならではのタッチを楽しめる作品と言えます。厚みがある分、立体的に見せることができますし、絵の具の使い方によっては平面的に見せることも可能です。油絵の具は足した油の成分が固まる特徴を活かし、キャンパスに絵の具を定着させるのです。19世紀、印象派の画家たちが顔料の粉を作りそこに亜麻仁油を混ぜて油絵の具をつくった結果、数々のマスターピースが生まれました。さて、油絵に使う絵の具には油が使われていることが分かりました。その油には「乾性油」と「揮発性油」という2種類があります。以下、それぞれを解説します。

油絵で使われる油その1:乾性油

乾性油は、名前の通り、乾燥する性質をもった油です。植物から抽出され、代表的なものには「リンシードオイル」と「ポピーオイル」があります。このうちリンシードオイルは、油絵に使うものでは最も一般的な油になります。油の成分は、強い黄色をした「亜麻仁油」です。亜麻仁油は、亜麻の種から抽出する油で食用としても人気です。このリンシードオイルこそ、日本で言う「亜麻仁油」です。

リノレン酸を含む亜麻仁油は乾燥が速く、固着力・耐久性に優れる特徴をもっているため、油絵に最適の油だと言われています。

一方、ポピーオイルはケシの油でできています。リンシードオイルと比較すると、薄めの黄変しやすく、乾燥する速度がやや遅い、乾いた部分の強度がやや劣るといった特徴があります。これらの油を使った油絵の具は空気中の酸素を取り込み、皮膜を作ります。絵の具をチューブからパレットに出し少しそのままにしておくと、表面に皮膜ができるのを見たことがある方もいらっしゃると思います。乾性油を使った絵の具で描いた画面は、光沢とツヤのあるものになります。

油絵で使われる油その2:揮発性油

揮発性油もその名から想像できる通り、揮発しながら乾燥していく油です。この乾燥の速度こそ、揮発性油の大きな特徴となります。

代表的なものには「テレピン油」と「ペトロール」があります。テレピン油はカラマツから採れる樹脂を蒸留して作られ、ペトロールは石油から作られています。テレピン油、ペトロールとも臭いが強く、かならず換気ができる場所で使用する必要があります。2つの油の役割を大きく分けると、乾性油は顔料を「延ばす」、揮発性油は「溶かす」といった違いがあります。このことから、乾性油を使えば油絵が持つ存在感、そして延びのあるタッチを表現することができるというわけなのです。

乾性油の種類

油絵ならではの延びと滑らかなタッチには、乾性油が良いことが分かりました。亜麻仁油もこの乾性油に使われています。ここから、乾性油であるリンシードオイルとポピーオイルについて解説しましょう。

リンシードオイル

リンシードオイルの別名は「亜麻仁油」で、油絵の技法にとって最も重要な油と言われています。本来のリンシードオイルは透明な黄褐色ですが、精製された市販品は無色〜黄金色まであります。リンシードオイルには、以下4つの大きな特徴があります。

乾燥が速い、油絵の具の固着力を高める、丈夫な塗膜をつくる、黄変する

リンシードオイルで描かれた絵は室内など暗い場所に置くと黄変する性質がありますが、光に当てると明るさが戻ります。黄変を避けたい白色や淡い色はリンシードオイルでなく、他の油を使用したり混ぜて使ったりすることもあります。

ポピーオイル

ポピーオイルは、ケシの種から抽出して作られ、リンシードオイルと並び、最も一般的な油のひとつです。

リンシードオイルと比べ、乾燥に時間がかかり、乾燥後の皮膜も柔らかいため亀裂が生じやすいという特徴があります。

しかしリンシードオイルに比べ黄変が少ないので、白色や淡い色を使う箇所に部分的に使われます。また、リンシードオイルに混ぜて使うこともあります。

亜麻仁油が優れているポイント

キャンバスの上に乗せた絵の具を筆やナイフでぽってりと盛り上げると絵画が立体的になります。これら独特のタッチや光沢は油絵ならではです。油絵ならではの表現を出すには、揮発性油より顔料を亜麻仁油で練り合わせた乾性油が最適です。油絵の乾燥の仕組みと、亜麻仁油が乾性油として優れている理由を解説します。

油絵の乾燥の仕組み

油絵が乾燥する仕組みをみてみましょう。油絵に使われる絵の具は、顔料に植物性の油=乾性油が練りこまれています。

亜麻仁油やポピーオイルがその油にあたりますが、これらの油が固まることで乾燥が起こります。水彩絵の具の場合は、溶剤である水が蒸発し顔料と接着剤が残り乾燥の状態となりますが、油の場合は蒸発ではなく「固化」というところが大きな違いです。

乾性油はグリセリンと脂肪酸からなっています。脂肪酸のうち、不飽和脂肪酸は空気中の酸素を吸収し「酸化重合」をする特徴があります。この酸化重合ののち、油の分子はお互いに結合しあいます。この工程後、立体的構造に成長し、完全に「乾燥」したという状態になります。塗った絵の具の厚さや気候によっても違ってきますが、一般的に乾燥時間は薄く塗った状態で24時間程度、盛り上げた表現の厚塗りの状態で6日〜7日かかります。

亜麻仁油が乾性油として優れている理由

油絵の乾燥は、不飽和脂肪酸によるものです。亜麻仁油にはこの不飽和脂肪酸(リノレン酸)が豊富に含まれています。

亜麻仁油は同じ乾性油であるポピーオイルと比べても、乾燥時間が速いという特徴があります。豊富なリノレン酸による効果により乾燥が速いだけでなく、高い固着力、丈夫な塗膜を形成することができ、これらすべてが亜麻仁油が乾性油として優れている理由となるのです。

黄変の程度はやや強いですが、淡い色には部分的にポピーオイルを使った絵の具を使うなど対応が可能です。

まとめ

食用として人気な亜麻仁油は、実は絵画の世界でも最も重要な油と言われています。リノレン酸を多く含む特徴から、乾燥が速く、高い固着力を持ち、丈夫な塗膜をつくる機能に優れています。そして、何より油絵としての魅力を引き出すことができます。光沢と透明感は他のどの絵の具にも出せません。亜麻仁油が絵画にも大変重要な働きを持つことを知り、趣味で油絵を描かれる方はこれまでよりさらにリンシードオイルに親しみを持たれるかもしれません。また、絵画展などでお気に入りの画家のマスターピースを鑑賞する際に、亜麻仁油のことを思い出されるかもしれませんね。健康にも芸術にも長い間使用されてきた油は他にはあまりありません。そのことを考えるだけでも、天然植物油の亜麻仁油に愛着が湧いてくるのではないでしょうか。