
亜麻という植物を見たことがない方は多いかもしれません。しかし、リネンの風合いが好きだったり、健康のために亜麻仁油を食べていたりなど、亜麻からできる商品には親しみがあるのではないでしょうか?私たちの生活にたくさんの恵みを与える亜麻について、栽培される地域や育ち方、またリネンや亜麻仁油が作られるプロセスなど解説します。
亜麻とはどんな植物なのか
亜麻(あま)という植物があります。あまり見る機会のない植物ですが、亜麻からリネンが採れたり、亜麻仁油をつくることができたりと、その商品は想像以上に私たちの生活に取り入れられています。まず、亜麻という植物に関して解説しましょう。
植物としての亜麻の特徴
亜麻は学名をLinum Usitatissimumと言い、アマ科の一年草です。フラックス(Flax)という別名をもち、花言葉は「感謝」です。原産地は小アジア地方と言われていますが、現在の主な産地はフランス北部、ベルギー、ロシア、東欧諸国、カナダ、および中国地方です。どの土地も比較的寒冷地であり、亜麻の栽培に適しています。
亜麻は高温に弱く、寒さと乾燥に強い植物です。生育力が強いことも亜麻の特徴です。
亜麻は同じ土地で連作をすると収穫量が減り品質も低下するため、通常6年〜7年の輪作を行ないます。成長すると草丈は1メートルほどになり、夏には薄紫の可憐な花を咲かせます。
日本で亜麻が栽培されている地域は?
上述の通り、寒冷地で育つ亜麻は日本では北海道の一部地域でのみ栽培されています。
北海道・札幌市北区の麻生地区では明治から昭和にかけて盛んに亜麻の栽培が行なわれました。亜麻の栽培は一旦はなくなったものの、亜麻を活かした街づくり活動は今も続いています。
北海道で亜麻栽培が衰退した理由のひとつは、戦後の化学繊維の台頭にあります。しかし、2000年にはふたたび、亜麻を北海道独自の作物にしたいという声があがりました。そうして、札幌市から北東20km?30kmに位置する当別町で亜麻栽培を復活させる計画が実現し、その後、北海道亜麻ルネサンスプロジェクトが進行しています。そうして、亜麻の栽培は十勝地方や上川地方まで広がることになりました。
亜麻の発育と栽培
可憐な花を咲かせ、リネンや亜麻仁油をつくりだす亜麻。どのように植えられ育つのか、ぜひご紹介しましょう。
亜麻の植え方
亜麻は、プランターでも花壇・畑でも栽培することができます。種は遅くても5月半ばまでに蒔きます。
その際、水はけの良い場所を選びます。成長して草丈が高くなったときに倒れるのを防ぐためにも、最低でも深さ15cmほど土を耕したうえで種を蒔きます。種蒔きをするときの深さは約1cm、種と種の感覚は2cmくらい離します。深すぎると発芽しても土からなかなか出てきませんし、種間の感覚が短いとのびのびと成長できません。種を蒔いたら、その上に土をかぶせていきます。一般の花と同様の種類・量の肥料を加えますが、基本的には水やりは不要です。雨があまりにも降らずに土の表面がひび割れるような場合のみ、水やりをします。
亜麻の発芽〜枯れるまで
種蒔き後、3日〜10日後に亜麻が発芽し始め、その後、本葉がでます。この時期も基本的に水やりは不要です。種蒔きから約45日ほどの間、亜麻はぐんぐん成長し草丈60cmほどになります。土の表面が乾いていれば、少しだけ水やりします。種蒔きから約70日ほどで、5弁の花が咲き出します。薄紫の可憐な亜麻の花はとても美しく、北海道・当別町では花畑を鑑賞するとともにイベントが開催されます。亜麻の花は日の出とともに咲き出し、その日の昼過ぎには散ってしまいますので、美しく貴重な光景として多くの人が当別町を訪れます。
亜麻の茎からはリネンが採れます。夏の間に根元から茎を抜き取り、そこから摂る繊維がリネンとなるのです。
また、花が咲いた後は枯れていきますが、このときに小指ほどの小さな鞘(さや)がつきます。この鞘のなかには、最大で10こほどの亜麻の種が入っています。この種が亜麻仁油のもとになるのです。翌年の春に撒いて、また夏に咲く美しい花を楽しむこともできます。このように栽培される亜麻から、皆さんが使うリネンや亜麻仁油が作られます。リネンと亜麻仁油について、解説を続けましょう。
亜麻の収穫から製品を作るまで
自然な風合いで大人気のリネン、健康効果また美容効果が大きい亜麻仁油、どちらも亜麻からつくられます。それぞれが作られるプロセスを解説します。
リネンができるまで
その風合いに加え、吸水性・発散性・通気性・保温性など優れた特徴を持つリネン。亜麻からどのようにできるのかプロセスをみてみましょう。亜麻が育ち、刈り取られた状態をフラックスと呼びます。フラックスはそのまま約1ヶ月間、畑に置かれます。
雨つゆで表皮を腐らせることで茎のなかの繊維を取り出しやすくするためです。この工程を「レッティング」と呼びます。レッティングの後は加工場にて、フラックスからリネンの繊維を取り出す「スカッチング」がされます。機械などで茎をのし、繊維以外の不要な部分を取り除く作業です。繊維をほぐしたりなめらかに整える工程を得て、この時点でフラックスは長くて丈夫な繊維になります。紡績工場にうつったフラックスは、糸を粗くねじったり引き伸ばしてヨリをかける作業が行なわれるなか、長い繊維と短い繊維に分別されます。これらの繊維から不純物を取り除き平行に並べ、色や太さのムラをなくしていきます。繊維の束はお湯をかけてペクチンを溶かしながら紡績し、こうしてできた糸を乾燥しつなぎ合わせれば、最高の強度を持つリネンの糸の完成になります。この糸を生地にするには「整経」をしていきます。生地幅およびたて糸の密度を決める整経はビームという道具を使い、たて糸・よこ糸を均整に並べる作業になります。
リネンはこのように多くの工程を得て、丁寧に作られているのです。丁寧に作られたリネンは、リネンだけが持つ質感と優れた機能で多くのファンを魅了します。衣類はもちろん、テーブルクロスやベッドリネンは長い間根強い人気を誇っています。
亜麻仁油ができるまで
亜麻仁油は亜麻の種からできる油です。現代人に嬉しい健康効果と美容効果で注目されています。
亜麻の種は、本来の栄養成分が壊されないよう「低温圧搾法(コールドプレス法)」によって抽出されます。そのプロセスですが、搾油機に亜麻の種を大量に投入し搾ります。絞られた亜麻仁油は搾油後、機械によって濾過されます。
こうして抽出された黄色味をおびた油が亜麻仁油です。この後は、未精製のもの、精製されたもの2種類に分かれます。亜麻仁油には豊富なa-リノレン酸、水溶性食物繊維と不溶性食物繊維、そしてリグナンが含まれていることから、さまざまな病気の改善と予防に効果があります。1日小さじ1杯ほどの摂取量を守って使用します。また、熱に弱く酸化しやすい性質に注意し、生で食べる、開封後は早く使い切るといった工夫が必要です。
まとめ
美しい薄紫の花を愛でる、茎から丈夫で風合いのあるリネンをつくる、そして種から現代人の生活に必要な栄養素をたっぷり含む亜麻仁油を摂る、亜麻はあますところなく私たちに大きな恵みを与えてくれます。亜麻が栽培され始めたのは、エジプトやギリシャでははるか昔1万年前まで、日本でも明治時代に遡ります。古きよきものは廃れることがないということを亜麻は証明しています。見る機会こそあまりないものの、作られる商品を考えれば亜麻は実は身近な植物と言えるのです。その身近さをもっと感じるために、ご自身で栽培してみる、というのも面白いかもしれません。栽培することで、人の役に立つ様々な製品を作れる亜麻と、可憐な花を咲かせる亜麻の両方を楽しめるかもしれませんね。