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ヨーロッパとリネンの関わり

リネンは亜麻科の植物で、はじめに生産が始まったのは小アジア地方ですが、現在盛んに生産されているのは主にフランス北部・ロシア・ベルギー・東欧諸国です。この記事ではリネンがヨーロッパにおいてどのような歴史を歩んできたのか、またどのような使われ方をしてきたのかなどをここではご紹介していきましょう。

リネンはヨーロッパでどのように使われてきたのか

リネンの生産と利用の歴史が長いヨーロッパでは、リネンはどのような使われ方をされているのでしょうか。リネンの持ち味を引き出すような使い方など、歴史の中からリネンの本質を紐解いていきたいと思います。ここでは、ヨーロッパでリネンの使い方をご紹介していきます。

ヨーロッパでの昔ながらのリネンの使われ方

ヨーロッパでのリネンの歴史は古く、その歴史は古代までさかのぼります。古くからのリネン利用の最も身近なものは、「ベッドリネン」と「ホームリネン」の2つ。

ベッドリネン:ピローケース、ベッドシーツ等の寝具のためのリネン

テーブルリネン:テーブルクロスやランチョンマット、コースターやナプキンなど食卓に並ぶもの

リネンは丁寧に使えば10年使えると言われるほど丈夫な繊維で格式が高く、ヨーロッパでは古くからリネン製品にイニシャルを入れ、ベッドリネン・テーブルリネンを一式嫁入り道具として持っていったそうです。その嫁入り道具のリネンを大事に扱い、自分の子の代にまで引き継ぐこともあったそうです。

また、その品質の良さや伝統・歴史から、王室で婚礼や王室の晩餐会のためのテーブルウェアで使用されています。リネンは「高貴な繊維」と呼ばれおり、まさに王室御用達というわけです。更に、リネンはその肌触りの良さや丈夫さから、肌に身につけるものとしても古くから用いられています。特に格式高い女性のための下着として利用されることも多く、下着を指すランジェリー「lingerie」という言葉の「lin」という部分はリネンから由来しています。最後に、リネンアートという楽しみ方もあるようです。お部屋に飾るアートを紙に描いたアートではなくリネンの布をベースにしたアートとして楽しむというものです。リネンも使い古したリネンを利用したりすることで紙には出せない独特の風合いを楽しめたり、布の独特の質感を楽しめそうです。

ヨーロッパにおけるリネンの歴史

私達人類が「リネン」を使い初めて、1万年と言われています。紀元前8千年頃から、チグリス・ユーフラテス川にリネンが発芽し、今では最古の繊維であるとまで言われています。リネンはそれだけ昔からずっと栽培され、重宝されてきた繊維なのです。

また、09年にはグルジア国立博物館とハーバード大学の国際チームがグルジアの洞窟から、深みのある黒や緑色に染まった約3万年前の亜麻染色糸を発見したことも明らかになっています。それだけ昔からリネンを栽培し、繊維として使われていたということになります。古代エジプトでは、「リネンは月光で織られた生地」とも言われ、神の儀式にも使われていました。また、ギリシャやローマでは純白のリネンが貴重とされて使われていました。聖書にも多く登場する繊維で、 原産地であるコーカサス地方からエジプトやギリシャ、ローマを経て、ヨーロッパへ リネンの文化が広がって行ったと考えられています。そして、今日も欠かせない素材として、今も尚その伝統を誇り続けているのです。

参考: 世界でのリネンの歴史 古代から現代まで

ヨーロッパのリネンの種類について解説

これまで、ヨーロッパにおけるリネンの使用方法について解説してきましたが、ここからはヨーロッパのリネンの中でも、有名な4つのリネンの文化や特徴などをここではご紹介していきます。身近なものから高級なものまで様々ですが、自分の肌や生活に合うリネンを探すお手伝いができるかもしれません。是非参考にしてみてください。

アイリッシュリネンの生地に関して

アイルランドのリネン作りが始まったのは宗教革命の頃です。盛んに宗教改革が行われていた時代に新教徒に追われてきたフランダース地方の旧教徒であったリネン技術者の人々が、アイルランドに移住しました。このことがきっかけで後にアイルランドで上質のリネンが作られるようになったのです。フランダース地方は古くからリネン製品の生産の盛んな地で、この地域でのリネン製品の生産の技術がアイルランドに移転した形になります。

また、アイリッシュリネンが世界的に有名になったのはアメリカ南北戦争の時代です。衣服の国内生産ができなくなったアメリカに対し、コットンの代わりにリネンを輸出したところその質の高さで人気になりました。それ以来、アイリッシュリネンは高品質のリネンとして有名になりました。

フレンチリネンの生地に関して

フランスで生成されるリネンの原料、フラックスも品質が高いという評価を受けています。

アパレルメーカーなども「フレンチリネン」という名前がついた商品を販売していることからも、フレンチリネン自体がブランドとなっていることがわかります。

ただ実際には、フランス国内では紡績と織りの工程はほとんど消滅しており、農業としての原料生産がフランス政府によって保護され、今も守られているのが現状です。

フレンチリネンは様々なリネン生地の中でも服に向いている代表的な種類と言われています。硬めの印象のあるリネンですが、 フレンチリネンは混合にしなくてもなめらかで上質感があります 。他のリネン生地と比較してもさわり心地が良いのでフレンチリネンに特化した商品が目につくこともありますね。生産量が多いからなのかもしれませんが、フレンチリネン素材を用いた製品は衣服を中心によく見かけることがあり、比較的入手しやすいように感じます。

ベルギーリネンの生地に関して

古代からリネン作りに盛んだったベルギーで生産されるリネンです。こちらも品質が高いという評価を受けており、特徴的なのが手触りです。 フランスのフラックスの生産農地と地理的には陸続きで続いており、品質はフランス産と同様です。ただし、現在のベルギーではスカッチングをして繊維を取り出す工場と織物工場は現存していますが、紡績工場はなく、東欧など他の国で紡績されています。

リネンの本場ベルギーでは、服にできるシワは人生のシワと同じとも言われています。使っていくうちに自分の肌に馴染んでくるというのがベルギーリネンの特徴です。

また、肌触りも柔らかなリネン生地なので、赤ちゃん肌にもいいと昨今ではベビー服などにもよく使われています。敏感な肌にも神経質にならなくていいですね。夏は涼しく、冬は保温性に優れている生地なので、どの世代からも愛されます。

リトアニアリネンの生地に関して

リトアニア、エストニア、ラトビアというバルト三国はリネンの生産地としてよく知られ、とくに日本ではリトアニア産が多く流通しています。 リネンは、 リトアニアの文化の中でもとても重要な役割を持ってきました。 バルト三国のリネンは、農業、繊維を取り出す加工、紡績、織りまで国内で完結しています。

フランス産のリネン原料で織られた布と比べると、やや素朴感があり、土質や気候条件のせいか、色もグレーがかっている傾向があります。高級感の強いフランス産に比べて、その素朴さをあえて愛好するファンもいます。

参考: リネンで楽しむ刺繍と生地の選び方

まとめ

ヨーロッパでは古くからリネンが生活の中に入り込み、地域毎に特徴をもったリネン生産が行われ、その消費も衣食住からアートに至るまで、リネン文化と行っても過言ではない「リネンを楽しむスタイル」が形成されています。日本では繊維の一つとして捉えられることがまだまだ多いリネンですが、リネンの持つ美しさや、使い込んだときの風合いは何とも言えない付加価値を持っています。発祥の地でもあるヨーロッパの歴史や文化から、日本でもリネン製品を選んだり使ったりするときは、その美しさや使い込む毎に深まる風合いに目を向けてみてはいかがでしょうか。

参考:リネンと麻の違い

参考文献 「リネンが好き」前田まゆみ著 文化出版局刊