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世界のリネンの歴史〜古代から現代まで〜

心地よい肌触りから夏服やベッドシーツで高い人気をほこるリネン製品。天然繊維として有名なリネンですが、実は何千年、何万年も前から人類が愛用していたという事実をご存じでしょうか。この記事では、はるか昔から活用されてきたリネンの歴史や、その栽培方法についてご紹介いたします。

世界におけるリネンの歴史について〜古代〜

リネンは「人類最古の繊維」と呼ばれるほどに歴史が古く、その起源は1万年以上前までさかのぼるといわれています。2009年にはジョージアのとある洞窟から亜麻の繊維が見つかり、それがなんと3万4千年前のものだったという記録があります。現代人には想像もできない昔まで、リネンの歴史は古いのかもしれません。ここではもう少し時代を進ませて、5000年ほど前のエジプトからリネンと人の関わりを見てみましょう。

リネンは古代エジプトでも利用されていた

古代エジプトでリネンは欠かせない生地であり、一般人の衣服もリネンでこしらえたものが多かったようです。一方で「月光で織られた生地」と呼び、神事にもよく用いていました。

リネンは光と純潔の象徴として一種の信仰対象でもありました。古代エジプトの神官はリネンで仕立てた衣服を「神に許されたもの」として身に着けていたといいます。

また、とても丈夫で人肌に優しいリネンは、なんとミイラの保存にも使われています。ミイラが巻いている布は亜麻布。実はリネン製品なのです。リネンは光と純潔の象徴であると同時に、富の象徴でもあったようです。

古代ヨーロッパにおけるリネンの歴史

リネンは原産地であるコーカサス地方からエジプトやギリシャ、ローマを経て、ヨーロッパへリネンの文化が広がって行ったと考えられています。

リネンを知った古代ヨーロッパ人は繊維を輸入するだけでなく、自身の手で亜麻を栽培するようになりました。ベルギーなどでは当時の種がいくつか発掘されています。

古代ローマ人や古代ギリシャ人は純白のリネンをよく好み、上流階級の人々は上質のリネンを身にまとっていました。

リネンの語源は?

リネンの語源はラテン語の「Linum」からきています。ラテン語での「Linum」はそのまま「亜麻」を意味しますので、当時の亜麻の主たる用途は繊維を布として利用する用途だったことが分かります。

リネン(Linen)を語源とする言葉も多く存在します。そのひとつに、線という意味のLine。これは「亜麻でできた細い丈夫な糸」が由来だとの説があるのです。他にも下着(Lingerie)もリネンが語源と考えられており、西欧諸国にとってリネンがいかに身近なものだったかをうかがわせます。

世界におけるリネンの歴史について〜中世〜

ここではエジプトからヨーロッパに渡ったリネンが、中世でどう発展したかを見ていきます。ヨーロッパ諸国はフランダース地方を筆頭に、長い年月をかけてリネン産業に精を出しました。フランダース地方とは、旧フランドル伯領を中心とする、オランダ南部、ベルギー西部、フランス北部にかけての地域のことを指し、この土地の豊かな土壌で育った亜麻から作られるリネンは、生地が丈夫で質感がよく、光沢感があると言われています。リネンは中世ヨーロッパの主力産業であり、ヨーロッパの伝統文化を語るうえで無視できない布地といえます。

中世におけるリネンの歴史

中世にリネンをもっとも活用していたのはヨーロッパといえるでしょう。フランダース地方では特にリネン産業に力を入れており、ナプキンやテーブルクロスが特産品でした。

他にもフランス、オランダ、ドイツといった国がリネンの生産に積極的でした。しかし、1337年より始まったフランス100年戦争の影響で、ヨーロッパ内は混乱に陥り、リネンの栽培も衰退の危機を迎えます。

この混乱の中、リネンの栽培を継続して行ったのがフランダースの都市・コルトレイクでは近くを流れるレイエ川近郊。この地域の人がリネン栽培を継続したおかげで、滞りなく、安定してリネン製品が供給できました。この出来事により、フランダースはますますリネン産業の中心的存在となります。リネン産業で大いに栄えたコルトレイクを中心に、中世ヨーロッパで作られたリネン製品はやがて「ホームリネン」「テーブルリネン」といったヨーロッパリネン文化の礎を築きました。

18世紀頃のリネンの栽培に関して

古代、中世と何世紀もの時間をかけて育ったリネン文化は、18世紀のヨーロッパで花開き、全盛期を迎えます。長い歴史の中でもリネンの生産量は非常に多い時期であり、「全世界で当時もっとも生産された繊維はリネンだった」といわれるほどです。

この頃にはリネン産業の中心であるフランダースだけでなく、ヨーロッパ全域がリネンの栽培を盛んにおこなっており、リネンはヨーロッパにおいて非常に重要な繊維となっていました。18世紀後半から始まった産業革命によって綿織物が普及すると、リネンは庶民の暮らしから少しずつ姿を消し始めます。しかし上流階級の人々には高級品として好まれ、今日でもその価値が見出されています。

参考:アンティークリネンと楽しみ方

現在の世界でのリネン

古代ではエジプト、中世ではヨーロッパにおいて発展したリネン。その後、現代に至るまで一時は軍需利用で盛んに利用される時期等を経て現代まで広く利用されています。特に現在は、様々な繊維製品が出回る中で、アンティークリネンや刺繍などといった、独自の付加価値やストーリーを纏って世の中に出回っています。日本でも、明治時代から北海道で生産された時期がありましたが、現在はほぼ海外からの輸入に頼っているのが実情です。

世界での亜麻の産地と栽培

亜麻は高温多湿に弱い植物です。よって亜麻の産地は、比較的寒い地域であることが求められます。現在における亜麻の主産地はフランス北部、ロシア・カナダなどの寒冷地。そして東欧諸国や中国などがあげられます。

亜麻の栽培は1年のうち4月から7、8月にかけて。4月に種をまくと7月頃に薄い青紫の花を咲かせ、7月末から8月にかけて収穫期になります。ちなみに亜麻は毎年栽培できる植物ではありません。リネンを同じ土地で毎年育てると土地がだめになってしまい、収穫量も品質も低下してしまいます。これを連作障害と呼びます。そのため、リネンの栽培を同じ土地でおこなう場合は、6〜7年ごとに1回だけ育てる輪作を採用するのが一般的です。よって、広大な土地で機械化された農業が発達した国での栽培が効率が良く、大量のリネン製品の生産には向いてます。

参考:リネンができるまで:リネンの素材、フラックス(亜麻)とは

まとめ

ここまでリネンの歴史についてご紹介してきました。

5000年前のエジプトではミイラを巻くために使われていたり、中世ではヨーロッパの発展と文化を支える礎だったりと、リネンは昔から人類の暮らしを支えつづけた繊維です。現在まで絶え間なく生産が行われ、世界各国で人々の生活を支えています。更に最近では生活必需品としての側面から、美しさやアンティークを楽しむような対象としても付加価値の高いものに変わってきているように思われます。多くの繊維がある中で、生活にこれだけ密着でありつつ、美しく、時に美術品的な側面を見せる繊維はリネン以外に無いかもしれません。美しいベッドシーツ、レストランのテーブルクロスはもちろん、普段身につけるリネン製品は、こんなにも壮大な歴史を人類とともに歩んで来た繊維であると思うと、より愛着が湧いてリネンの使い込んだ味わいにも更に愛着が持てるかもしれませんね。

参考:ヨーロッパでのリネンの使われ方